夜更かしは、するものである。 自分もすっかり年を取り、一応節制を持つ大人になったらしい。昔なら、大技がでるたびに声を上げ、返せそうにないフォールを返すたびに、机をバンバン叩いていたはずだ。それでも、今夜だけは、真夜中にも関わらず、テレビの前でうぉーと(小声なんだけど)何度も声を上げずにはいられなかった。 なぜなら、三沢光晴VS川田利明。 5年振りに実現した、プロレス界最高のシングルマッチ。ブランクとなったこの5年の経緯を書き出すと間違いなく長くなるのでやめておくけど、この5年だけじゃない、もう彼らはプロレス絵巻に20年近く歴史を刻んできた。二人の濃密な時間は、プロレスファンなら誰でも思い出すことができる。 川田が背負った全日本プロレス。三沢が背負うNOAH。でも、今日に限って、お互いが背負っているものはあまり重要ではなかった。川田は、とにかく三沢に勝ちたかった。袂を分かってから5年、自分自身で積み上げてきたものをもう一度三沢にぶつけて、三沢から3カウントを奪いたかった。これまで何度も繰り返されてきたその行為は、5年という月日とともにファンをノスタルジックにさせ、川田自身が「これが最期。終止符を打つ」と試合前に公言していたこともあって、ファンはとにかく静かに試合を見守った。セミファイナルの小橋VS健介の「豪腕対決」の異常な盛り上がりが嘘のように、静かな戦いだった。三沢のエルボー、川田のキック。これまで二人が全日本で積み上げてきた歴史絵巻をもう一度紐解くかのごとく、淡々と、そして厳しく重い技をお互いに打ち合っていく。 川田にも、何度かチャンスはあった。それでも、三沢の驚異的な粘りの前にフォールは奪えない。攻勢が逆転し、致命的な技を何度か喰らってしまってからの川田は、とにかく哀しかった。もはや意識はどこかへ飛んでいるのだろう、フラフラとコーナーに立つ三沢へと向かう。ノーガードの川田の顔面に強烈な三沢のエルボーが飛ぶ。何度も何度も、乾いた音が響き、悲鳴に近いどよめきがドームを包んだ。打たれても打たれても倒れない。そんな川田の背中に、ついこの前この世を去った橋本真也が重なっていた。勝ちたい、というその一心だけで、フラフラになりながらも相手に向かっていく。乾いた音に跳ね返されても、まだ二本足で立っている。どよめきがうなりへと変わっていく。10発近くノーガードでエルボーを喰らったあと、ようやく川田は三沢のもとに辿り着く。そして、もう一度眼をカッと見開き、意地だけでエルボーを打ち込んだ。それが、橋本が打たせたエルボーに見えてしかたがなかった。もう一度、三沢のエルボーを喰らったところで、全ては終わった。三沢のランニングエルボーが、フラフラとリング中央によろめいていった川田のアゴを打ち抜く。5年のブランクを経て、また川田はリングに大の字になって負けた。 高校時代からの、一年違いの先輩と後輩。 それが、ずっと変わることのない二人の関係である。 必ず越えたい壁。でも、どうしても越えられない、高い壁。 川田利明は、ある意味もっとも哀しい運命を背負ったプロレスラーなのかもしれない。セミファイナルは、本当に素晴らしい激闘だった。今年のベストバウトに選ばれるのは、もはや間違いない。それでも自分は、メインのこの試合のことを書き残さずにはいられないのだ。 リリカルなメインンベントがあってもいい。 リリカルなプロレスが、あっていいのだ。 ずっと自分が川田に惹かれていた理由が、やっと分かったような気がした。激闘も、哀愁も、全て存在するのがプロレスなのだ。故ジャイアント馬場が「なんでもありなのがプロレス」と言った意味は、ここにあるんだと思う。ただ相手を倒すことだけが目的の格闘技との違いは、ここにある。意識が飛んでフラフラになり、ノーガードで打たれ続けても、試合が終わったりはしない。鍛えた体を張り、相手の技を受け続け、最後に壮絶に散るという生き様を見せつけることこそ、プロレスなのだから。 川田よ、今日は本当にいい試合だった。 橋本も、心から喜んでいると思う。 ありがとう!
by beyond6690
| 2005-07-19 04:48
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